最近なんだかこのような記事を連発しているような気がしますが、新人デザイナーさんに向けて考えることは、改めて自分を戒めることにもつながるなぁ~と強く感じています。
もしかしたら、
「文字数が多くて読んでられないよ…」
という方もいらっしゃるかもしれません。先に謝っておきます。
“デザインとは?”といった疑問は、本当に奥が深く「これ!」という解答がなかなか出せないものですが、様々なことを経験する中で、私なりに新人デザイナーさんにとって参考になるものがお話出来たらいいな~と思います。
色々な人の意見や先輩方のアドバイスも頂きながら、「一人前のデザイナーになる!」と頑張っている人もいることでしょう。
今では、インターネットを開けば、数多くのデザインに関するヒントは転がっていますが、きっとその中に「正解はひとつもないんじゃないかな!?」なんて思っています。そもそも答えのない問題に向き合うことがデザインでもあるので、きっとそういった幾つかの“ヒントをかき集めながら、ひとつの正解らしきものを目指して頑張るしかない”のでしょう。本文にも記載してますが、“終わりのない旅をとことん愉しむため”に、きっとこの「10の心得」もひとつのヒントになってもらえたら幸いです。
それでは、すこしばかり長い記事ですがどうぞ。
1.他者のデザインから多くのヒントを得る
広告物やWEBサイトなどその対象となる媒体に関わらず、他のデザイナーさんが思いを込めて作り上げたデザイン制作物を見て、単に「カッコイイ」とか「カワイイ」とか「スッキリしてる」とか「斬新だ」など感心するだけでなく、
「なぜこの箇所は目立つ色にしてあるのか?」
「なぜここに空間が設けてあるのか?」
など、目を引くところだけでなく、背景の微妙なグラデーションの使い方や、縦にうっすら入っているグリッドラインなど、そのデザイナーさんが細部に込めた“僅かなこだわりの部分”にも気づくことができるかどうか!?はとても重要なことです。
芸術や美術などの巨匠と呼ばれる人たちが、教え子たちにアドバイスする中でよく言われる「良いものをたくさん見なさい!」と言うのは、きっとそいった意味が含まれているのでしょう。普通の人と同じ目線で物事を見ているだけでは見つけることが難しい問題点に気付けるかどうかは、自分の“目線がどれだけ養われているか?”とも言えます。誰でも生まれながらにそのような目を持っているわけではなく、その人が「何を見たくて、何を得たいのか?」意識をして世に溢れるデザインを見れるかどうかで1年後のデザイン技術も知識も相当な違いが出てくることでしょう。
2.普段触れたり見たりするものほど、こだわりを持つ
日常生活において使用する雑貨類やインテリアなど、今は何でも手頃な価格で買うことができます。筆記用具ひとつを見ても、近所の100円ショップなどで「安いからこれでいいや。」と選ぶのではなく、自分が本当に使いたいと思うモノをもっと色々なモノを探してみて「これだ!」と言えるモノを選ぶべきでしょう。
また、食器やグラスなど使用する際に手で触れたり肌に触れるものほど、その素材や形状を知り、特徴を理解した上で納得する機能やデザインのものを利用する習慣を持った方が良いと考えます。少しばかり高価であっても、自分がそのモノを選ぶことの意味があって、モノに対するモチベーションも感覚も違いが生まれます。
“デキル男は、お洒落な万年筆を使っている”というフレーズを見たことがありますが、これは決して高ければ良いということではなく、日常頻繁に利用されるペンやノートなど身近なものほど、「使い手=自分が気持ちが良くなるようなデザインのモノ」を使うようにしましょう。そうでなければ、自分が制作する商品やデザインも、「早ければ良い」とか「安ければ」というレベルで留まってしまうのではないでしょうか。
3.デザインの枠にとらわれない
第一線で活躍するデザイナーは、「WEBデザインだけ」「パッケージデザインだけ」「ロゴデザインだけ」というように、ある特定の商品やサービスに絞られることなく、広い分野で活躍している人が数多くいます。
「建築デザイナーが電気スタンドをデザインしたら?」
「テキスタイルデザイナーがインテイリアをデザインしたら?」
というように、そのデザイナーの専門外のカテゴリーやジャンルのデザインを経験していくことで、スキルやデザインの幅、引き出しの数など、デザイナーとして必要な技術向上の可能性は広がりを増します。また、そのように“キャンバスを変えてみることで見えてくる自分のデザイン力の強みや弱みを知ることのできるキッカケにもなる”ことでしょう。
男性ならば女性誌を、女性ならば男性誌をというように、普段あまり関わることのないカテゴリーやジャンルのものほど新しい発見やヒントが見つかりやすいかもしれません。WEBデザイナーのつくるWEBデザイン+意外性や独自性は、業務の範囲外に目を向けることで広がっていきやすくなります。
4.修正指示やダメ出しに感謝の気持ちを持つ
デザイナーにとって嫌なことのひとつである「ダメ出し・・・」。これは、もちろん避けては通れないもの。自分の作るものに上司やクライアントが「ダメ出し」や「やり直し」を入れられることは正直気分の良いことではありませんが、これは決してあなたのデザイン力を全否定しているわけではありません。
クライアントの求めるものと方向性が少しズレてしまっている場合や、人によって受け取り方が違うことなど数多く存在するため、担当者の受ける印象と作り手の印象が合致しなかったりすることはあたりまえにあることだと割り切りましょう。ただし、決められたコンセプトが的確に表現できていなかったり、誤字・脱字が発覚したりといった単純なミスは、作り手側の単なる怠慢でしかありません。些細な記述ミスや指示無視は信用を希薄にしてしまう可能性があるので注意しましょう。
新人デザイナーであればあるほど、記載忘れやダメ出しを受けますが、それだけ様々なこ指摘を頂けるありがたい機会であり、改善すべきところはどこなのかを明確に見えることでしょう。言い換えれば、「修正のくりかえしでデザイナーは技術を上げていく」と言っても過言ではありません。
「修正=デザイン直し」ではなく「修正=精度をあげること」だと受け取って、磨きをかけていくと考えた方がプラスになるのは間違いありません。
「これ直して!」「ここ伝わりにくい!」と言われるのは、誰でも気分の良いことではありませんが、その指摘に対して文句を言うのではなく「ご指摘ありがとうございます」という気持ちで、腕を磨くチャンスだと受け取れば自らの骨となり肉となっていくものです。
5.広い客観性を持って考える
何かをデザインするということは、目に見えないものを見える形に変換する作業とも言えます。
「可愛い」とか「カッコイイ」とか、人それぞれ微妙に違った捉え方をする要素を、どれだけ大衆的にイメージするものに具現化することができるかどうか?
正解が幾通りもある問題に対して、自分なりに最適な答えをきちんと説明できること。また、より多くの人が共感を得られるものにすること。
それを実現するためには主観だけでなく、客観的や俯瞰的に物事を見ることが必要になってきます。
「他人の考えていることなんてわかりっこない!」
と、割り切ってしまえば悩むことはありませんが、デザイナーとしてのやっていくのは難しいでしょう。「わからない」で終わってしまえば何もはじまりません・・・。「わからないけれどおそらくこう考えるのではないか?」「アンケートを取って統計を取ってみよう!」とか、人に何かを伝えることは、そもそも簡単なことではありません。それをどう的確に表現するかどうか、それがデザイナーの仕事です。
アーティストや芸術家であれば、自己表現を追求して少数派でも認められ、ファンが付いて生活できる程度の収益があれば良いのかもしれませんが、デザイナーは、クライアントの利益に貢献することでお金を頂けるもの、相手あって成り立つ仕事です。
自分がいくら良いと思うものを作っても、依頼主が首を縦に振らなければ1円も頂くことはできません。人が求める抽象的なものを的確な言葉で言語化し、それを商品として具現化すること。それがデザイナーの仕事です。
6.捨て案はいらない
仕事をする中で「パターン出し」というものがありますが、よく耳にする次のようなフレーズがあります。
デザイナーAさん「C案は捨て案で、A案かB案を推していきましょう」例えば3パターンを提出する際に、A案かB案が自信作で、C案はやっつけ案という構図をやりがちですが、そもそもやっつけ案ならば出す必要はないでしょう。そのようなC案を出すことで、技術の低さや詰めの甘さを露呈することでのメリットがそもそもあるのでしょうか?
「3案も提出してくれてありがとう!」なんて言ってくれるクライアントほど、デザインなんてそもそもそこまで追求していない人が多いもの。数を出せば単純に喜んでくれる相手ということは、中身ではなく量で判断しているとも言えます・・・。
「デザインは量か質か?」と考えれば答えは明白。
そもそもパターン出しの数が多いということは、コンセプトや方向性が絞り切れていないという証拠でもあります。曖昧な部分が打ち合わせの段階で多くあるほど、デザイナーも困ってしまいます。もう少し話を詰めてからデザインに入った方が良いのかもしれません。
「たいして美味しくないものを作ったけどメニューに載せちゃえ!」というシェフがいるレストランに、あなたは行きたいと思いますか?
7.おまかせという言葉をそのまま信じない
時と場合によって、制作案件の中に「すべておまかせ」という、何とも曖昧模糊な内容のものが紛れ込んでくることがあります。
デザイナー冥利に尽きると言えばそうかもしれませんが、正直困惑してしまうことでしょう。また、そういった依頼をされるクライアントに限って出来上がったものに「ここは○○がいい」「やっぱりこの項目を追加して」「ここを別の色にしたものが見たいな」など、後になって意見を言ってくるものです。
やはりいくらおまかせという発注であっても、必ずそこには依頼者の「好き嫌い」や「主義主張」があるものです。「デザインはおまかせするから、うちの会社の名刺デザインをお願い!」なんて言ってくるクライアントでも、ざっくりとした好き嫌いはあるはずです。依頼者の譲れない部分や外せないこだわりというものを、きちんと仕事を受けた際に確認することはもちろんですが、相手の身につけている服装や、趣味、好きな音楽など、直接関係のないようなものでも会話をする中で、情報を得るようにしましょう。
相手が求めている潜在的なキーポイントを探り当てる技術や目があるかどうかも、スキルのひとつと言えます。
8.机上のデザインに縛られないこと
実際に手を動かして作業する技術、例えばPhotoshopやIllustratorの「Howto」ばかりを勉強するのではなく、写真の構図や色彩、紙質や厚み、デザインすることへの直接的な知識に限定することなく、あたかも関係のないような知識であっても調べたり、経験を重ねることで、デザインスキルの向上につなげることはいくらでも可能です。
いくらデザインツールやソフトを使えるからと言って、良いデザインができるとは限りません!
世の中にAdobeの製品をそつなく使いこなせる人は星の数ほどいるでしょう。その中でデザイナーとして価値のあるものを生み出す人は、いったいどれくらい存在するのでしょうか?
車を運転することができる人は世界中にたくさんいますよね?そのすべての人がプロのドライバーと言えるのでしょうか?
「あなたは“デザインができるようになる”ということが目標ですか?」それとも「プロとしてのデザインをひとつのツールにして、“誰かの役に立つ”ことが目標ですか?」技術的な事ばかりに目を向けるのではなく、感覚的なものも同時に養っていけるようにしていきましょう。
9.五感を使ってデザインすること
デザインをする対象物が仮に、ポスターなどの「平面」だったとしてもそれを展示する場所は「空間」です。
ポスターを見る人は、三次元の世界でデザインを見ることになるということになりますが、それはきっと上からも下からも横からも見られる可能性があるでしょう。
「表と裏」だけで考えるのではなく、「上下左右」からも見られるという意識を持つことでデザインも変わってくるのではないでしょうか。
また、そこに触れる、嗅ぐ、聞くなどの要素も加わることもあるでしょう。見る人が五感を使ってデザインに関わるはずです。それなのに、作り手が視覚のみでデザインしていては伝えたいことは伝わりません。作り手も見る側の立場になって「五感を使って考えること」。あたりまえのことですが、それを意識できている人は少ないかもしれません。
10.終わりのない旅を愉しむ
「デザインには正解がない」そんなことをよく耳にします。
芸術やアートはもちろんのこと、デザインにも数学のような「絶対的な解」が存在しません。地道に計算をしていけば必ず「答え」が出るという約束もなく、そもそも「答えはない」なんてことは大前提だったりもします。
そんな世界の仕事とどれだけ向き合えるか?
“向き合うとは付き合うということ”答えのない議論をトコトンしなければならないということでもあります。もはやその「これが答えかもしれない」というものに行く着くまでの過程にこそ意味があり“やりがい”もあると言えるのではないでしょうか。
最後に・・・
ここまで、「10の心得」をお話しさせて頂きましたが、これは私個人が思うことなので全員に共通することではおそらくないでしょう。ひとりひとり考え方が違うからこそ、この世界は面白いのだと思っています。あくまでご参考までにとしか言えませんが、基本的なことは多少の差異はあれど、きっと皆同じなんじゃないかな~って思います。
これからたくさんのデザインをしていく方々へ、すこしばかりの下敷きにでもなってくれたらと思います。
長々とお付き合いありがとうございました。