世界三大建築家のうちのひとり“ミース・ファン・デル・ローエ”が提唱した言葉が、現代の理想的な思想を象徴しています。これは、デザインに限らず普段の生活を送るなかで誰にでも関係してくる考え方ではないでしょうか。
Less is more.
より少ないことは、より豊かなこと
ある物に追加要素を付け加えたり、個性を出すために装飾品を飾り立てるのではなく、今そこにあるモノから不必要な要素を差し引いていくことで、限りなくゼロに近い表現・スタイルによって、生活をシンプルにしていくという考え方。
デザインで言えば、華やかで高貴な印象を表現するために商品以外に関連するイメージ素材や画像を周りに散りばめるのではなく、主役が引き立つためにあえてそこに余計なものは置かない。という潔さがかえって商品の精巧さや洗練された印象を与えることができるという手法につながります。
私たちの生活に置いていえば、家の中に配置する家具やモノを飾り立てるように所狭しと並べるのではなく、本当に良いものや好きな物だけをあるべき場所に配置するすることで何が大切で何をするべきなのか、など余計な邪念を抱くことなく捉えやすくなることになる。
海外におけるデザイン分野においては、こういった「Simple is best.」と言われるような、余分なものを削ぎ落としていくことが、新しく美しい表現のカタチにもなっています。最近では「断捨離」なども良く耳にしますが、これは流行り廃りではなく、モノに溢れた現代におけるわかりやすいコンセプトとも言えます。
他にも、同じような意味合いの表現に次のようなものがあります。
Everything you need, nothing you don’t.
必要なものだけ
本来、必要のないものは持つ意味がありません。「あったら便利はなくても平気」とも言いますが、そもそも人が生きていく上で必要なものは数える程度のものしかありません。より豊かにより便利にを求め続け、私たちはここまで来ました。発展や進化のためにはその欲求や探求心が不可欠ですが、自分にとって必要かどうか?は人それぞれであるべきで、誰かが持っているから・・・、なんとなく欲しかったら・・・、というようなあまり考えもなく自分の手をモノで塞ぐことは、きっと本当に大切なものを離してはいけない瞬間に気が付けなくなってしまうかもしれません。
Perfection is achieved when there is nothing to take away.
完璧とは、これ以上削れない状態のことである
継ぎ足すのではなく、差し引くことを考える
「本当に必要なものだけですべては満たされる。」
人間には様々な欲求が存在します。“欲を出す”と言うとマイナスな意味に捉えられがちですが、本来人間は、自己の欲求を満たすために様々な試行錯誤や努力を積み重ね、ここまで進化を遂げてきました。個々人が欲を満たすために繰り返されてきた事象が、現在の生活の豊かさの根源になっているということに間違いありません。そして、これからの時代はその欲をさらに「継ぎ足す」ことではなく、そこから「差し引く」ことでより心が満たされていくだろうという方向性に変わっていく段階に入ってきています。
シンプルさを追求する
プロダクトの世界では、シンプルでありながら誰にとっても理解しやすく扱いやすい物を作るということが、簡単なことではありません。簡潔なビジュアルは、クールであると同時に一部の人にとっては極めてわかりにくいという可能性が生まれやすいのも事実です。
理想的なのは、直感で操作方法がわかるもの。
大人でも子供でも、ひと目で使い方が見えるようなインターフェイスが求められますが、シンプルさと利便性のバランスを取ることは、非常に難しいもの。しかしながら、そのシンプルさを追求した先により洗練されたものを生み出すことができれば、誰もが驚くような美しさを持っていることでしょう。
人はシンプルで潔いデザインであればあるほど、魅力を感じやすく、独創的に見え、心を奪われているもの。iPhoneなどがその良い例と言えるでしょう。
印象派の画家である、ハンス・ホフマンも同じようなことを言っています。
「簡素化というのは、不要なものを削り、必要なものの言葉が聞こえるようにすることだ。」
プロダクト製品や事業戦略では、多くの場合、引き算が価値を生み出します。 「製品でも成果でも市場でも、あるいは組織でも、足し算中毒は矛盾、過負荷、無駄のいずれかを生むし、すべてを生んで混乱してしまうこともある。」
また、徹底的にシンプルさを追求することと「ミニマリズム」は違います。ポイントは、絞り込むことであって、ミニマリズムではありません。
当たり前のことですが、仕事はシンプルな方が効率が良い。
では、デザインもシンプルにすれば良いのではないか?
必要のないものを切り捨て、最小限の要素で最大の効果を発揮することこそ、優れたプロセスであるとも言えるでしょう。
本来、本当に伝えたいことはシンプルなことである。
あれもこれもと、過剰表現により複雑化してしまうことで、メッセージが濁ってしまうこともあるます。一言で簡潔に伝えるメッセージほどわかりやすく記憶に残るものはないというのも納得がいきます。
自分の内側と向き合ってみる
幸せの意味や価値観が急速に変化し続現代社会において、物質的な物やお金で人生を豊かにするのではなく、精神的・体験的なものを重要視すべきで時代になってきているのではないでしょうか。何かを手に入れることでの満足感や、限定商品を身に着けることによる優越感などは、ひとときは人を安心させますが、手に入れた瞬間から失う恐怖心が生まれるもの。1+1のように数を増やしていくことは簡単ですが、本当に必要なものだけを選び、所持品を減らしていくことは、よりクリエイティブな人生を生きていくということにつながってくるものなのかもしれません。
TVやCMでオススメしている新商品やサービスを見ると、ついつい欲しくなってしまうということがありますが、そのように外部からの情報に必要以上に影響され、自分の生活やスタイルを変えていくのではなく、本当にあなたにとって大切なもの、幸せとはいったい何だろうか?と、真剣に自分の内側と向き合ってみることで、幸せの価値観もまた変化していきます。
不要なものを選択し削除する
あなたの身の周りを眺めてみてください。鞄の中や引き出しの中、机の上など改めて見てみると、そこには色々な物であふれているのではないでしょうか?
まずは、自らの意志でそれらを選択し、少なくしていくことからはじめてみると良いでしょう。物事を整理することで、より良いもの、大切なものが見えやすくなっていきます。それこそ「Less is more.」を身体的・精神的に実践することにつながるのかもしれません。